在阿法師讃仰

昭和32年6月
浄土宗宗報第481号


昭和二十七年十月一日、自坊から五里鹿野山を越え市宿の方に下り古丹堀の附近についた時、山麓に一人の婦人仕事をしていた。この辺に古いお墓がある筈ですがご存じでございませんかと聞くと、知りませんと答えた。近くのお寺の御先祖にあたるお方のお墓ですがと、在阿様かと申してすぐ案内して下さった。
翌二十八年一月十五日早朝バスで墓参、拓本を取り午後三時頃終わろうとすると、一人の婦人が上がってきて墓前に供餅線香を供養して礼拝せられた。何処からお参りですか、ときくと小糸村からきました、私は二十四日に月参りしておるもので今日は正月のお餅をついたからお供えに参りました、月参りは常代村からも見えますよと申し添え、夕方急いで下山されました。木更津からバス一時間で君津郡清和村市宿三経寺門前着、門前から山道十町古丹堀といふ山腹に墓あり。三経寺は始めこの山の上にあり寺の名は在阿法師が山に行をして終わられたといふ所から山行寺と申し、塚の印に松一本植えたと書いてあるもの、六月二十二日市宿星野家で拝見した。何時頃今の所に移り三経寺になったかといふ事は今の所分からぬ。三経寺に伝えているもの
在阿法師古松墳墓記
在阿法師墓碑文
義譽上人墓碑文(この碑の台石四方に施主の村方として四十七ヶ村及び江戸二名彫刻あり)
 真言宗大徳この碑を拝しこの広い土地は殆ど真言宗なり暫時留錫の教化の偉大なる全く佛教界の高僧と鑽仰せねばなりませんぬと申された
六百二十五年忌大供養施主芳名簿序
六百二十五年大法要記念碑は在阿法師義譽上人碑と並て建ててあり施主三十一村三百余名外種々の講中等を禄し大導師大巌寺住職権少教正石井実禅師、鎌倉天照山光明寺住職中教正吉水玄信師他二十ヶ寺の随喜寺院を得、明治十五年二月二十四日に盛大に行われた事を明細に彫刻してある。
昭和三十二年二月二十四日在阿法師七百年遠忌報恩塔も相並で建っている。

在阿二人説
三祖五十六歳建長六(一二五四)下総鏑木光明寺に於て決疑鈔述作の時 決疑鈔序 談話のついで賓客勧めて云く翰を深めすんば心府に納めがたし且らく一隅を示せ三端を叩かん
之について了譽上人決疑鈔時から百四十三年目應永三年四月直牒に賓客とは師の仰せに云く千葉の一門鏑木九郎胤定入道法名在阿也と申して居られる。
三祖五十九歳康元二(一二五七)下総福岡西福寺に於て決答疑問鈔述作の時
決答授手印疑問鈔序並縁起
上総国周東に在阿弥陀仏といふ僧あり初めは念仏授手印を読んで帰依して念仏門に入て後又念仏名義集を読んで粗ぼ往生の意を弁えて出離の安心に此書を信仰すると雖然れども他流の人に遇て三心の義をきて我信仰すると彼が解義と相違して其疑なきに非ず加之故上人の一門によらんとするに亦鉾楯あり是に依て遠江蓮華寺に住て故上人の口訣をきくに所伝の旨趣貴しと雖彼禅勝房は学文なきが故か経尺の文義に符号すること能はず或い相州石川の里に尋行て道遍に所伝の意気を訪ふに道遍示して云々(中略)昔親盛法師道遍に語って故上人在世の時問奉て云御往生の後浄土門の不審をば誰人に問い奉るべきやと大師答えて曰く聖光房と金光房と委く我所存を知れり彼らは遠□の能化たり汝等がために問易からず京中に聖覚法印亦我義を知れり滅後に疑あらば此人に可聞とのたまえり宜哉上人の遺言實なる哉相伝の違はさること沙門早く彼聖光上人の門人に随て具不審を問うべきなり今聞然阿上人下総に住すと彼人は聖光上人の上足なり像対面の志あると雖老毛下総に至ること能わず他日沙門の伝説を聞て亀鏡に備んとす云々
康元二年正月十七日彼在阿然阿の草庵に尋来て手に授手印疑問を挙げて口に口伝の決答を請 然阿齢六旬に逼りて目闇く手振う然りと雖来問の志に感じ利生の多からん事を思うて余寒の風を凌ぎ頽齢の筆を走らせ先に聖光上人より聞ける趣きをのせて在阿の疑問を答竟ぬ如此間書四巻となり日三旬に及ぶ在阿疑を決して帰り了ぬ
了譽上人は決答銘心鈔に在阿是天台宗学者也と決疑鈔の在阿と別人として居られる
浄土傳灯輯要下 総五重法式私記 享保五年霜月義譽観徹
上人は在阿は天台宗の学者也在阿に同名あり決疑鈔に賓客勧めて云々といふ賓客は鏑木入道胤定法名在阿といへり今は此人にあらず彼在家今は出家也とはつきりと申して居られる十年後この義譽上人七十四才春親しく在阿法師の古墳を尋ねられたこと前記の通りであります
謹んで決義鈔の序を拝見すると賓客といふ言葉で表されて居る在阿は親しみ深くあられた方と思はれます この時から約二年後に決答疑問鈔序に示される在阿は上総周東といふ所から所々の名僧を尋ね苦辛の末尋ねて来た詳しい縁起を述べて居られる了譽上人及義譽上人の教えを仰ぎ在阿二人説を信じている次第であります
生所入滅年代については古い文献はまだ見あたりませぬ明治十五年六百二十五年の記事で上総周東の生であり入滅も正嘉二年二月二十四日といふことが分かり尓来二月二十四日御命日を守る(中川大仙)